「心ゆらぐ話」校長室から27
「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」という題名の絵本を、昨年見つけました。初読のとき絵本なのに内容は大人向けで、とても難しいテーマだと感じました。同時に、これは、心の教育の学習材になると思いました。この大統領とは南米ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカ氏のことです。
「世界でいちばん貧しい」というのは、大統領らしからぬ質素な暮らしぶりから、そう言われたのです。大統領の公邸に住まずに農場で花や野菜を育てながら暮らし、運転手付きの立派な大統領専用車に乗るかわりに古びた愛車を自分で運転して仕事をしていたからです。大統領の給料の大半は貧しい人たちのために寄付していたのです。
2012年、ブラジルのリオデジャネイロでの国際会議にも、質素な背広にネクタイなしのシャツ姿で壇上に現れたのです。そこでのスピーチが、あまりにも衝撃的だったので、世界的な話題となりました。
わたしたちが挑戦しなければならない壁は、とてつもなく巨大です。目の前にある危機は、地球環境の危機ではなく、わたしたちの生き方の危機です。人間はいまや自分たちが生きるためにつくったしくみをうまく使いこなすことができず、むしろそのしくみによって危機におちいったのです。(中略)
古代の賢人エピクロスやセネカ、そしてマイアラ民族は、つぎのように言いました。
<strong>「貧乏とは、少ししかもっていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである」</strong>
このことばは、人間にとって何が大切かを教えています。(中略)
わたしが話していることは、とてもシンプルなことです。
社会が発展することが、幸福をそこなうものであってはなりません。発展とは、人間の幸せの味方でなくてはならないのです。
人と人とが幸せな関係を結ぶこと、子どもを育てること、友人をもつこと、地球上に愛があること――
こうしたものは、人間が生きるためにぎりぎり必要な土台です。発展は、これらをつくることの味方でなくてはならない。(後略)
出典 【「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」(汐文社)2014】
わたしの道徳の学習では、普通の白熱電球とLED電球を売り込み、どちらの電球を買うかから始まります。ムヒカ大統領は、スピーチの中で、こう言っています。
「そういうもの(10間時間も20万時間ももつ電球)をつくってはいけないのです。なぜなら電球をどんどん売らないといけないからです。働いてものを買い、使い捨てする、そんな文明でなければいけないからです。」
そして、古代の賢人や近くの民族のことばを引用して言います。「貧乏とは少ししか持っていないことではなく、無限に欲があり、いくらあっても満足しないことです。」
「貧乏とは何か」「幸せとは何か」「豊かさとは何か」「人生で大切なこととは何か」を問いかけます。
この絵本は、内容的には、大人が読むものです。国際会議の出席者向けのスピーチです。資本主義社会のあり方、人間の生き方について考えさせられます。
この道徳の時間の感想を最後の5分間で書いています。次のように書いている子がいました。
「<strong>ぼくはムヒカ大とうりょうのスピーチをききました。ムヒカさんは世界一まずしい大とうりょうです。でもお金などいるのでしょうか。ぼくはお金は少しで友だちがほしいです。なぜかというと、世界の人たちと友だちになれたら、世界のどこに行ってもなかよくできるからです。</strong>」(3年T男児)
「<strong>ホセ・ムヒカさんのスピーチをきいて、びんぼうとは、少ししかもっていないことではなく、かぎりなく多くをひつようとしていることだと知りおどろきました。びんぼうのイメージが今回のじゅぎょうでかわりました。でも、ホセ・ムヒカさんの言っていることはほんとうだなと思いました。</strong>(3年K女児)
また、4年生のK女児は、絵だよりで授業の感想を届けてくれました。「人の命」についてのスピーチ部分に心が動かされたようです。ムヒカ大統領は、こう述べています。「人の命についてはどうでしょうか。すなおに考えてみましょう。わたしたちは発展するためにこの世に生まれてきたのではありません。この惑星に、幸せになろうと思って生まれてきたのです。人生は短く、あっという間です。そして、命より大事なものはありません。命は基本的なものです。しかし、必要以上にものを手に入れようと働きづめに働いたために、早々に命がつきてしまったら…?(後略)」
すぐれた絵本とは、年代にかかわりなく誰でも読めるものです。読む年齢によって感想が変わってくるものです。いつか再び読んでみたとき、それぞれが違った感想を持つことでしょう。 (若林)


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